・・・・・・久しぶり(早乙女さつき'05)

・・・・・・久しぶり(早乙女さつき'05)

タイトル「あの頃のように」

ミーンミーンミーンミ…ン… 蒸し暑い真夏。 7月24日は、みちるの神社では毎年お祭りが行われる。 今年も、みちるもパパもママもさつきちゃんも、みんなこの日は大忙しだ。神社の境内には地区の青年部や婦人会のみんなが集まり、夕方から行われる夜店と、もちまきのお餅や、ちびっこ達に配られるおやつの準備をしている。 中でもお餅は、さつきの家がやっている、おまんじゅう屋さんでの特注品で、さつきのパパが宵の日から気合を入れて作った、おみくじ餅である(何) このおみくじ餅が、子供達や若い娘さんたちに大人気である。このお祭りでしか手に入らないのだ。 まだ午前だが、神社の周囲や商店の並ぶ道沿いには、提灯が掲げられ、浴衣の娘さん達がちらほら。 本当は、みちるも浴衣に着替えてお祭りを楽しみたいのだが、やはりそこは主催者側の人間なので、着替えるのは巫女装束。

パパ「こーら!みちる!みんなもう集まってるんだぞー!表に出なさい!」
みちる「休憩休憩っ!ちょっとだけ休憩だからさっ!!」
パパ「しょうがないなぁもう・・」

・・・みちるパパは、娘を目に入れても痛くないほどに可愛がっているのである。多少のわがままは聞き入れてしまう。
さつきママ「あらーっ!みちるちゃんっ!一年見ないうちにべっぴんさんなっちゃってぇ!」
みちる「ありがとう〜♪」
さつきママ「うふっ。今夜は、さつきと一緒に大役を務めてもらうんだから、がんばってちょうだいよ!」
みちる「うん。」
さつきママ「さつきー!!ちょっと!こっちにいらっしゃい!みちるちゃんと二人でしっかり、打ち合わせしなさいねーー!」
みちるパパ「む。頼んだぞ。」

・・・さつきがやってきた。少し不安な顔つきだ。 みちるにはそれがすぐに解った。

みちる「・・・」
さつき「・・・・」
みちる「・・・・・久しぶり。」
さつき「うん・・・久しぶり。」

実は二人。この日会うのが久しぶりなのである。高校は同じだというものの、三年になってからはクラスも代わり、だんだんといっしょに居る時間が減ってきてしまっていた。しかもお互いに、新しいクラスに気の合う友達を見つけていたのだった。この年頃の女の子は実に不安定。互いに変わりゆく姿を不安に思う一方で「もう自分は彼女にとって必要ではないのでないだろうか」と思い始めていたのだ。 そして時間が経つにつれて、気にはなりつつも離れてゆく。部活も違うせいで登校時間や下校時間なども異なり、家は近くだが会うことはなかった。

ではなぜ今回、さつきちゃんが神社のお祭りのお手伝いをしているかと言うと、そんな二人の事情など知らない、パパたちがさつきに「今年も神社のお手伝いしてくれな!」と言って来たのである。さつきは、みちるとの距離が有るから・・ということに一瞬躊躇ったが、これは、あの頃のように戻りたいという気持ちが、さつきの心に大きくあったため、「きっかけ」として、この機会の流れに乗ってみることにしたのだ。これはさつきにとって、大きな決断であった。

そしてみちるも、さつきと同じ気持ちだったのである。表面には出さなかったが、心の中ではかなり動揺していた。本当は休憩しているのではなく、表に出ればさつきが居る。そしてこの二人に出来ている溝を無視して話し掛けれる勇気など、みちるには無かったのだ。不安感でいっぱいになり、本当は祭り気分でもなかったのである。 今日、さつきと会ってどうなるか・・それを考えただけでも不安で泣いてしまいそうな気分だった。相手が今どういう気持ちでいるか。これは互いに全く読めなかったのである。離れている時間が長すぎたのだ。でも。さつきから先に気持ちを開くことが無いということだけは、みちるには解っていた。 しかし今、どうしようもない気持ちで動けなくなっている自分の前に、さつきが現れたのだ。

みちる「きょっ・・・今日はあの・・ありがとね。ウチの手伝い・・」
さつき「うっ・・・うん・・ぜんぜん・・」
みちる「・・・・」
さつき「・・・・・」
みちる「さつき・・・あのぅ・・・」
さつき「私なら大丈夫だよ・・・」
みちる「えっ!?」
さつき「うん、大丈夫だよ・・・私のほうこそ・・・・・ごめんねみちる・・なかなか声かけられなくてこんなに時間・・・」
みちる「あああっ・・あのっ・・こっちこそ・・さつき怒ってないかなって・・あっ(汗)」
さつき「よかった。みちるともう話せないかと思っちゃった。」
みちる「うわっ!こっちこそ、あのぅ・・・」
さつき「・・・・・」
みちる「・・・・・・」

長い沈黙が続いた。二人は目を合わせることもなく、外に見える、お祭りの日の景色を眺めていた。

さつき「また、あの頃みたいに・・」
みちる「うん・・・・」

みちるは正直、驚いていたのである。さつきの方から、みちる自身の殻を叩き割ってくれているのが解ったから。一方さつきは、もう決死の覚悟に近い、腹のくくりようだった。 それほどに、二人の友情は固く深く、また溝も同じくらい深かったのだ。

さつき「表でみんな待ってるから・・一緒にいこ。」
みちる「うん・・・さつき・・ありがとね。」
さつき「ううん。。さぁ行こ!」
みちる「おう!!」

みちるの顔つきが変わった。一変して明るくなったのだ。今までの溝が埋まったことで、みちるの悩みも一気に解消できて、ほっとしたのだ。

さつき「今日はね、本当はドキドキしてたんだ・・・みちると話せるかどうか心配で」
みちる「うん。私もだよぅ。いっぱい謝りたいこともあるんだ・・」
さつき「お互いに、同じ気持ちだったんだね。じゃぁ、私がみちるに謝らなきゃいけないことも有るから、もうナシにしちゃおうよ。」
みちる「さつきぃぃぃ〜〜〜〜(抱)」

今度は、みちるが、さつきが居なきゃダメになってしまったようだ。

さつき「さっきね、みちるのパパにカメラ借りてきたんだよー!ね、久しぶりに一緒に撮ろうよ!あの頃みたいに!」
みちる「よっし!じゃぁ着替え・・・・・」
さつき「パシャッ」
みちる「わー!!!!!フェイントだよーさつきぃぃー!!!!」
さつき「あはははははっ!!」
みちる「もうー!さつきー!!!」
さつき「もう一枚っと♪パシャッ!」
みちる「んもーーーーーー!!!!」

縁側から境内に、みちるとさつきの高らかな笑い声が、聞こえました。今夜のおみくじ付きもちまきは、みちるとさつきの二人の巫女が撒くことになっていたのです。

(魔凛殿の妄想より)